この会員ページでも紹介されていますが、現在バーゼル条約の改定に伴い我が国における廃プラスチックの輸出管理の方法について検討が進められています。
環境省や経済産業省、財務省が主な所轄官庁となるのですが、パナ・ケミカルの犬飼社長も環境省の「廃プラスチックの輸出に係るバーゼル法該非判断基準策定のための検討会」の委員としてこの議論に参加しておられます。
この検討会ではバーゼル条約に定める「特別の考慮が必要な廃プラスチック」というものがどの様なものであるのかという事が議論されています。
具態的には、廃プラスチックの由来や履歴を鑑み、異物の含有量や汚れの程度を吟味して「特別の考慮が必要な廃プラスチック」の該当範囲を決めていくという作業が行われています。
Web上に会議の様子(動画)や議事録、添付資料などが公表されていますので、興味のある方はご覧頂けますと宜しいかと思いますが、会議の中で廃プラスチックの由来や履歴に関して、「プレコンシューマであるのか、ポストコンシューマであるのか?」という点が大きな論点となっています。
これはマテリアルリサイクルの仕組みを創り上げていく上で非常に重要な概念でありますので、いま一度、この会員ページで取り上げ整理しておきたいと思います。
プラスチックのリサイクルシステムを構築していく上で、対象となる廃プラスチックのライフサイクルを把握する事はとても重要です。
特にマテリアルリサイクルにおいては、廃プラスチックとなった状態における「汚れの状態」や「汚れの由来」、「素材の単一性」、フィラーや可塑剤などの「添加物の存在」、「排出量の推移」などの点を精査した上で、適切な中間処理法や再生処理法を選択し、再生原料の供給先が決定されていきます。
マテリアルリサイクルに適さない廃プラスチックについては、サーマルリカバリー(熱回収)や単純焼却が選択されていく訳ですが、この品質に応じたリサイクル手法の選択もプラスチックのライフサイクルを俯瞰する事で行われます。
プラスチックのライフサイクルをざっと見てみますと、原油や天然ガス、石炭といった「化石資源」を出発原料とするものと、「バイオマス」を出発原料とするものがありますが、いずれのルートもその“役割”が終われば廃棄されるという点においては違いがありません。
問題は“廃棄のされ方”でありまして、まずは廃プラスチックの“廃棄のタイミング”の違いによるマテリアルリサイクルのルートの違いについて見てみましょう。
ほとんどのプラスチックの製造においては、化石資源やバイオマスから「モノマー(単量体)」が製造され、これ重合する事で「ポリマー(重合体)」が製造されます。
このポリマーに添加剤などを加えたり、アロイ化したり、化学改質したりする事で、成形材料である「プラスチック原料」が生まれる訳です。
このプラスチック原料を成形する事で「プラスチック成形品」が製造され、我々の生活に広く用いられています。
そして役割を果たしたプラスチック製品は廃棄され、「廃棄物」として処理されます。
この廃棄物である廃プラスチックは、回収され、そのまま使うことが出来るものは「リユース(再使用)」され、それ以外のものは、汚れの程度などの品質に応じて、「マテリアルリサイクル」や「サーマルリカバリー」に供されます。
一部のプラスチックについては、化学原料や燃料に改質される「ケミカルリサイクル」に供されています。
いずれにせよ、“消費者による使用”を経る事でプラスチック製品としての役割を終えてから回収され、品質的に優れるものはマテリアルリサイクルに回されるというルートです。
この様に“消費者による使用”を経てから、マテリアルリサイクルに供された材料の事を「ポストコンシューマ材料」といいます。読んで字の如く“消費後の材料”という意味です。
ポストコンシューマ材料としてよく見掛けるものには、使用後の食品包装や流通用の包装資材が挙げられます。
例えば、PETボトルやボトルキャップは各々回収され、マテリアルリサイクルに供されている事は皆様御存じの事だと思います。
ポストコンシューマ材料には、PETボトルの様な廃棄物処理法上の一般廃棄物に該当するものだけでなく、産業廃棄物に相当するものも存在します。
例えば、卸売市場で発生する発泡スチロール(EPS)製の魚箱や、流通の現場で廃棄される使用済みの包装資材などは産業廃棄物に該当します。
いずれにせよ、“消費者によって使用された材料”が廃棄された場合に「ポストコンシューマ材料」に該当するという事になります。
他方、プラスチック原料の製造過程や成形過程において発生するスプルーやランナー、パージに用いられた樹脂、捨て打ち品、不良品なども廃棄物となります。
これらは“消費者による使用”を経ずにマテリアルリサイクルに供された材料であり、「プレコンシューマ材料」といいます。読んで字の如く“消費前の材料”という意味です。
これらの廃プラスチックは、ポストコンシューマ材料と異なり、廃棄物処理法上は産業廃棄物に該当します。
プレコンシューマ材料については、例えば、成形工場では以下のルートで処理されています。
(1)同一工場内(関連会社間も含む)で粉砕などの中間処理を施された後、再び製造工程や成形工程に原料として使用されるルート (2)再生原料として商社や再生業者に販売されるルート (3)自社での利用のため、再生原料化を外部の業者に委託するルート (4)単純焼却、サーマルリサイクル、埋立処分などに供されるルート
まとめますと、消費者による使用を経た材料(廃プラスチック)が「ポストコンシューマ材料」、製造や成形工程で発生した消費者による使用を経ていない材料が「プレコンシューマ材料」という事になり、プラスチックのライフサイクルにおいては、リサイクルのルートが異なる事になります。
実は、「ポストコンシューマ」、「プレコンシューマ」という用語は、リサイクルの現場、特に廃棄物処理の世界ではあまり使われてきた言葉ではありません。
この会員ページを御覧の皆様も多分普段つかう言葉ではありませんよね。恐らく、専ら「廃プラ(廃プラスチック)」という言葉を使っていると思います。
しかし、この「廃プラ」という言葉については、「廃棄されたプラスチック」という意味以外持たない訳でして、その出所などは全く分からないという問題点があります。
また、公的な「廃プラ」の定義も無く、廃棄物処理法などでもいきなり“廃プラスチック”という言葉が出てきてしまいます。
他方、「消費者による使用」という履歴により区別する「ポストコンシューマ」、「プレコンシューマ」という用語はそれなりに意義のある言葉ですし、再生処理の技術を選択する上でも参考になる用語です。
おまけに、日本工業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)においても、JIS Q 14021-2000 (ISO 14021 : 1999)「環境ラベル及び宣言-自己宣言による環境主張(タイプII 環境ラベル表示)」に、「ポストコンシューマ材料」、「プレコンシューマ材料」という用語の定義がなされています。
私が申し上げたいのは、「今後は“ポストコンシューマ”、“プレコンシューマ”という用語を使ってね」という事ではありません。
これまで、我々は「廃プラ」や「廃プラスチック」という言葉を、あまりに安易に使ってきたのではないかという事を申し上げたいのです。
今回お話しさせて頂きました「ポストコンシューマ材料」と「プレコンシューマ材料」という用語をテコに、もう一度、「廃プラ(廃プラスチック)とは、そもそもどの様なものなのか?」と初心に立ち帰って考えてみるのも宜しいのではないでしょうか?
環境省で進められているバーゼル法の該非判定の基準策定においても、廃プラスチックの多様な形態や性状について現場写真などを用いて検討されていますが、やはりその廃プラスチックの由来や履歴という視点から捉えるという作業は非常に効果的な手段であります。
「プレコンシューマ」と「ポストコンシューマ」という用語の意味をよく理解して頂ければ、廃プラスチックのバーゼル法の該非判定基準についても理解し易くなると思います。
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