【なごやラボだより】原油相場の見通しは・・・
- hombori
- 4月1日
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資源プラ協会なごやラボの本堀です。春ですね。ぽかぽか陽気です。
さて、当協会では月1度開かれる理事会においてプラスチックを取り巻く様々な課題を取り上げ、プラスチックリサイクルの可能性について検討を行っています。
前回の理事会では、なごやラボとして「原油相場の見通し」をテーマとして理事の皆様に報告させて頂き、プラスチックリサイクルへの影響について議論を交わしました。
プラスチックを始めとする化学製品の多くは、原油(石油)を出発原料として製造されています。故にプラスチック原料の価格は原油価格とリンクする傾向にあります。
原油価格は基本的に需給バランスにより決まりますが、需給動向は社会の情勢が大きく影響します。
昨今の世界情勢を眺めてみますと、ロシアによるウクライナ侵攻は長期化し、ガザ地区を始めとする中東地域の紛争は激化し、中国の景気は悪化の一途を辿り、欧州の経済は極端な脱炭素化政策に振り回され混迷を極め、米国では米国第一主義を掲げるトランプ政権が返り咲き経済政策の大転換が予想され、全世界的に経済環境が混沌としている事が伺えます。
一点だけ留意して頂きたいのですが、原油には「エネルギー資源としての原油」と「化学原料としての原油」の“2つの顔”があります。エネルギー資源としての原油からは、石油や灯油、軽油、重油といったエネルギー生み出す「石油製品」が製造され、化学原料としての原油からはナフサ(軽質ナフサ、重質ナフサ)といったプラスチックを始めとする「石油化学製品」が製造されます。
原油の用途としては、圧倒的にエネルギー資源としての原油に需要がありますので、原油の価格はエネルギー需要に大きく影響され、プラスチックに対する需要は全くといっていいほど影響しません。
事実、石油化学工業会の公表では、我が国において2022年にプラスチックの生産に利用された原油の割合は約3%です。
故にプラスチック原料の価格は、エネルギー需要に基づく原油価格に“引っ張られている”形でリンクしているという事になります。プラスチック原料の価格は、原油のみならず、プラスチックに対する需要の影響も大きく受ける事を留意して下さい。

最近の原油価格の推移を下図に示します。

北米地域のマーカー原油であるWTI原油、欧州のマーカー原油である北海ブレント原油、中東―アジア地域のマーカー原油であるドバイ原油、そしてOPEC加盟国の主な原油の価格を加重平均したOPECバスケットを示しましたが、いずれも似た値動きをしています。
2018年以降、北米地域でのシェールオイルの増産(シェール2.0)によりWTI原油の価格が他のマーカー原油よりも低い状況でしたが、世界的なコロナ禍の影響で産業が停滞した結果、原油価格はいずれのマーカー原油でも暴落しました。その後、経済活動の回復に伴い原油価格は上昇したのですが、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、原油供給が不安定化し、価格は高騰、産油国は増産を進めました。
ところが、中国や欧州などの景気が著しく減退し、また欧州諸国による原油からクリーンなエネルギー資源とされる天然ガスへの転換が進む中、原油価格は伸び悩む様になりました。そこで、OPEC加盟国にロシアやマレーシア、ブラジル、アゼルバイジャンなどの非OPEC加盟の産油国を加えた「OPECプラス」の形で協調して減産(協調減産)を進めて原油価格の高値での維持を図りました。
しかし、米国に加え、ガイアナ、ブラジル、カナダ、ノルウェーなどの新興産油国が増産を進めており、協調減産の効果は限定的なものとなっています。その結果、現在の相場は“揉み合い”状態のボックス相場の様相を呈しています。
そこで主な産油国の生産動向を見てみましょう。下図に米国、サウジアラビア、ロシア、UAE、イラン、メキシコ、ベネズエラ、マレーシアの原油生産量の推移を示しています。

先に述べた様にロシアによるウクライナ侵攻を契機に米国の産油量は増加しています。これは自国内の需要への対応と同盟国への供給を指向したものであり、経済の安全保障政策の一環です。
他方、ロシアは経済制裁の影響で販路が閉ざされ、また原油価格の維持のためOPEC加盟国と協調して減産している結果、産油量は伸び悩み、需要が旺盛なインドや同盟関係にある中国へ“割安”に販売せざる得ない状況に陥っています。資源売却により外貨を獲得する術以外を持ち合わせていないロシアにとっては厳しい状況が続いています。
OPEC加盟国のサウジアラビアやUAEは原油価格の維持のため、協調減産を続けていますが、同じOPEC加盟国であるイランは増産しています。これは米国との対立による経済制裁の影響が大きく、中国などへ原油を安値で“叩き売り”する事で外貨獲得を図っている事を示しています。
この様に現在の原油相場は、各国の思惑が錯綜し、需要と供給のバランスが崩れ、揉みあい状況が続いている事が分かりますね。
特にOPEC、OPECプラスの協調減産は今後の原油価格の動向を占う上で非常に需要です。そこで下図にOPECプラスの原油生産シェア(占有率)の推移を示します。

全世界の産油量に占めるOPECプラスの産油量の割合(シェア)は減少傾向にあります。これは先に述べた様に、米国に加え、ガイアナ、ブラジル、カナダ、ノルウェーなどの新興産油国が増産を進めている事に由来しており、OPEC、OPECプラスの原油市場における”影響力”が徐々に低下している事を意味しています。
更にOPEC加盟国内部においても、“方向性の違い”が露呈してきており、先に述べたイランの増産の他、UAEがOPEC脱退の可能性をチラつかせています。つまり、OPECやOPECプラスの協調減産の効果が薄れてきていると考えられるのです。
理事会では、この様な統計的なデータを眺めながら、プラスチック原料価格への影響について、理事の持つ高い専門性や深い業務経験に基づき多角的な視点から議論を進めました。
理事会での議論の詳細は、後日、会員の皆様に会員ページやセミナー等を通じてご報告させて頂きます。
2025年、荒れる世界経済の状況を鑑みると、原油相場の動きからも目を離せませんね。
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